中国十四億人民が突入する巨大な仮想現実
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記事作成協力=株式会社ビービット
キャッシュレス社会の裏で進行する社会の巨大な変革
中国のキャッシュレス化は想像以上!
4月7日・8日で中国・上海に行った。株式会社ビービットが主催するChina Tripに参加し、中国の超キャッシュレス社会の現状を肌で感じてきた。話題になっていたので予備知識はあったのだが、現実に目の当たりにしてみると、そのインパクトは遙かに大きかった。あたかも仮想空間の中に入り込んだとでも言おうか、現金を全く必要としない不思議な感覚の生活があった。
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生活のあらゆる場面の支払がスマホひとつでできる
スマートフォン普及がモバイル決済推進
ご承知のように、今の中国ではスマートフォンがあまねく行き渡り、その利便性を飛躍的に高めるアプリも瞬く間に広がった。モバイルインターネットの普及と併せて、もはやインフラと言っていいだろう。さらにネット上の金融に対する規制や法整備がほとんどなかったため、IT企業によるモバイル決済システムが急激に進展した。それにより消費の利便性が向上したのは勿論だが、現金の場合の匿名性に対し、デジタル情報による決済は購入者情報の入手を容易で確実なものにし、膨大な個人情報の取得を可能にした。つまりはオフライン行動についてもデジタルデータ化する道を開いたのだ。
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中国ならではの超速の展開
このようなことが可能だったのは、中国という、ある意味クローズドで国家の強力な管理体制のもとにある環境があったからだろう。インターネットでさえも、この例えが適当かどうかは別にして中国では巨大なイントラネットのようなものだ。国家主導であらゆることを一気に変えることができるのは、中国を措いて他にない。さらに、個々の国民に関するビッグデータの取得が、IT企業にとって有効なように、国家にとっても非常に有効であることは想像に難くなく、急激なキャッシュレス社会化のもうひとつの理由になっているのかも知れない。
キャッシュレスの現場を視察
今や中国社会のあらゆる販売場面がキャッシュレスとなり、スーパー、コンビニ、レストランなどから屋台に至るまでスマホで決済が完了する。物乞いまでQRコードを利用した個人間送金だという話を聞いてちょっと唖然とした。モバイル決済の事例として「摩拝単車(モバイク)」などのシェアサイクルや「滴滴出行(ディディチューシン)」などのライドシェア、「盒馬鮮生(フーマーシェンション)」というスーパーマーケットなどを視察した。
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配車アプリ「ディディ」の利用は上海では当たり前
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デジタル化中国の様々な場面でよく目にするロゴ
「盒馬鮮生」に見るMOM
オンラインとオフラインのマージ
視察した中で印象的だったのは、「盒馬鮮生」というアリババ系の生鮮食品スーパーだ。店舗には、一般客よりもむしろ、ユニフォームを着て買い物カゴを持ち、歩き回るスタッフの姿が目立つ。彼らはスマホから注文された品物をピックアップする係で、商品を集め終わると配送係にバトンタッチ。つまり店舗はオンライン購入の倉庫でもあるわけだ。5㎞圏内なら30分以内に配達されるという。これなら有人のレジが不要になってあぶれた労働力もうまく吸収できるだろう。支払はオンオフともに全てアリペイ(アリババ系のスマホ決済の仕組み)から。ここでは、いわばオンラインとオフラインのマージを実証している。もはやO2OではなくOMO(OnlineMerges Offline)が中国先進企業の合い言葉になりつつある。
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㊧「盒馬鮮生」入口 ㊥アリペイ用のセルフレジ ㊨店内の様子
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㊧買い物カゴを持った商品ピックアップスタッフ ㊨配送バックヤードの様子
信用度をゲーム感覚で競う
「人間の与信」が意味するもの
今回の視察で、もうひとつ面白いと思ったことがある。それはモバイル決済とともに「個人の与信」がクローズアップされてきたことだ。アリババ系の信用調査機関が提供する「芝麻信用(セサミ・クレジット)」は、個人の信用状況を示す指数だ。これはモバイル決済における膨大な取引データに加え、政府のオープンデータなども利用して算出される。金融面に限らず、約束や契約、社会的ルールを守る人ほど、社会の様々な局面で有利になる仕組みだ。点数が上がるほど社会的ステータスも上がるので、スコアのアップを競うようになる。それはあたかもゲームで点数の優劣を競うような感覚であり、がんじがらめの管理社会といった悲壮感のようなものはない。
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芝麻信用ホームページ画面 信用スコアには、個人とは別に企業版も
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芝麻信用スコア表示画面の例
国家も社会信用システムの重要性を認識
この「個人の与信」をスコアでカウントするというシステムは国家が、社会的なルールの面で国際的にも何かと物議を醸す傾向がある自国民に社会的な信用獲得を促すひとつの方策と考えることもできる。現に中国政府も現代市場経済には社会信用体系の構築が必要だという認識を示しているそうだ。違う視点から考えると、共産主義が内包する「平等」の概念に生産とは異なる領域で競争を持ち込み、将来に向かっての強力な発展の原動力と位置づけているのではないだろうか?そのことは裏返せば、個人個人の社会的なあり方をあらゆる面で国家権力が望む方向へと導くことも可能にする。確かに上海の街で出会う人々は以前に比べてマナーが良くなり、社会全体がいい方向に向かっているようには思えるのだが。
今回の上海視察は、キャッシュレス社会にとどまらず、それを梃子として社会システムの変革と国際社会での更なる地位向上を目指す中国という国家の野望を垣間見る思いのする旅だった。