9割の新製品は失敗し、市場調査も役に立たない!?
初期Googleのエンジニアでもあったアルベルト・サヴォイアが書いた『NO FLOP! 失敗できない人の失敗しない技術』から、新製品失敗の法則とクリエイティブなリサーチ手法についてご紹介します。
失敗の原因はコンセプト
「Flop」とは英語で大失敗という意味。著者、アルベルト・サヴォイアは、「新製品の失敗(Failure)の原因は、市場参入(Launch)か機能(Operations)、またはコンセプト(Premise)である」と定義し、その頭文字をとって「FLOP」をこの本の概念としている。そして、ほとんど(慎重に見積もって9割程度)の新製品は失敗する。たとえ、どんなにきちんとつくって売ったとしても。その根本となる失敗の原因はコンセプト、つまりそもそものアイデアが間違えていた。要は、顧客が欲しくないアイデアであったからだと。
9割が真の失敗率かどうかには議論の余地があるかもしれないが、輝かしい成功事例の影に数えきれない失敗事例があるということは、私のP&Gでの経験則からも真っ当な前提だと考える。また、市場に出されずに葬られた新製品企画を含めれば、確かに新製品、特に今までになかったような新製品の場合、成功打率はさらに低いだろう。まずは、顧客が欲しくなるコンセプトであることを知った上で市場導入への投資をするべきであると説いている。
クリエイティブな調査
アルベルトは、「そんなこと分かっているよ、だから市場調査をしているんだ」と反論しそうな読者をさらに挑発する。市場調査は失敗する。そのほとんどは、実際の市場ではおこなわれず、「想像の世界」と呼ぶ作り物の環境でおこなわれているからであると。そこで彼が勧めるのが、実現すべきコンセプトかを検証する「プレトタイピング」。プレトタイピングの最初の事例としてあげられたのが、IBMが行った音声入力タイプライターの調査である。実際にその時点では音声認識の技術は完成しておらず、調査は機械ではなく、隣の部屋にいたタイピストが行うことで、体験してもらい、調査を行った。要は、製品を作る前にそのふりをするプレトタイプによって、コンセプトを検証しようとしたのだ。確かに調べてみると、IBMは1980年台初頭にこの人力音声入力タイプライターを「オズの魔法使い」と呼び、調査をし、その時点での製品化を断念している。
プレトタイピング以外の調査が役に立たないというアルベルトの前提に対しては必ずしも賛同しないが(いい調査もあれば、悪い調査もある)、プレトタイピングというのも調査の手法として可能な限り考えるべきであろう。調査を定型的な仕事と捉える人がいるが、調査、いやその上位概念のリサーチとはクリエイティヴな仕事であることが、彼が紹介する様々なプレトタイピング事例から確認できる。また、製品そのものよりも、製品が与えてくれる体験を優先する意味で思考の幅を広げてくれる。
コンセプトには成功するための仮説が必要
もう一つ、アルベルトはコンセプトについても示唆に富んだ助言をしている。コンセプトには明確な「こうであれば成功するという仮説」が必要である。「少なくともX%のYはZする」というレベルの具体化をする。これはいきなりコンセプトを作ろうとする前にその前提を明確にする上で取るべきステップとして使える。戦略を考える上で重要な質問とされる「What needs to be true?(何が真実であるべきか?)」に通じる考え方である。
最後に。それまで事業を次々と成功させてきたアルベルトは、2,500万ドルの資金提供を得たにも関わらず、大失敗を経験した結果、過ちを繰り返さないためにこの方法論を体系化したらしい。残念ながら、大失敗の詳細が書かれておらず、それはいったい何だったのだろうとモヤモヤしている。